2013年6月27日木曜日

浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション / 三菱一号館美術館

自らの審美眼を磨き、よりよい作品を探し求め、何らかの意味(意義)のあるコレクションにまとめ上げ、それを多くの人に公開してくれるコレクターの存在というのは、ごく一般的な美術ファンにとってはありがたい存在である。

先週から三菱一号館美術館で始まった「 浮世絵 Floating World 珠玉の斎藤コレクション」も、そんなコレクターの一人である斎藤文夫氏のコレクションを中心に据え構成している展覧会だ。参議院議員を2期務めた斎藤氏は、国内有数の浮世絵コレクターとしても知られ、その趣味が高じて、現在は自身で設立した「川崎・砂子(いさご)の里資料館」の館長を務められている。そのコレクションは量的に膨大であるばかりでなく、世界的に貴重なコレクションが数多く含まれているなど質的にも高いものとなっている。


しかし、浮世絵の展覧会はここのところ、さまざまな美術館でかなり頻繁に企画されている。そのため多くの優れた作品が含まれたコレクションであっても、ただ単に漫然と作品を並べ立てるだけでは、展覧会として高い評価は到底得られはしない。

もちろん三菱一号館美術館も、そんなことは百も承知のはず。当然のごとく来館者をより楽しませ、また作品の理解をより深めるための工夫を凝らしているので、そこらへんをご紹介しておきたい。

【その1】
会期を3期に分け、各期ごとに全作品を大胆に入れ替えている。総展示数は500点を超えるそうである。
会期を前期・後期に分け、一部展示作品を入れ替える展覧会はよくあるが、さすがに会期を3期に分けて、しかも全点入れ替えという展覧会は珍しい(私の乏しい経験では、そのような展覧会はいままでに見たことがない)。したがって展覧会全体の会期は3カ月近くあるが、個別の会期はかなり短い。各期の日程は以下の通りである。

第1期:6月22日(土)~7月15日(月・祝)

第2期:7月17日(水)~8月11日(日)

第3期:8月13日(火)~9月8日(日)
    
もしかすると私のような浮世絵好きは、3期とも会場に行くことになるのかもしれない。

【その2】
さらに単に会期を3期に分け、作品を全点入れ替えるだけではない。各期ごとにテーマも変わってしまう。こうなるともう、各期ごとに全く別の浮世絵展になると考えることもできるわけだ。 各期のテーマは以下の通りである。

第1期:浮世絵の黄金期
     ―― 江戸のグラビア

第2期:北斎・広重の登場
     ―― ツーリズムの発展

第3期:うつりゆく江戸から東京
     ―― ジャーナリスティック、ノスタルジックな視線

もう少し噛み砕くと、第1期では美人絵や役者絵などの人物中心、第2期では日本各地の風景を描いた名所絵、第3期では幕末から明治期の横浜絵、鉄道絵、開化絵を通して、江戸から東京への移り変わりを観賞できるという展覧会構成になっている。
こうなるともう、3度会場に足を運ぶしかないではないか。なんとなく美術館側の戦略にはまっているような気がしないでもないのだが……。

【その3】
さらに展示室で来場者は、異質なモノに出会うことになる。浮世絵の展覧会だというのに、ロートレックやピエール・ボナールの版画集『レスタンプ・オリジナル』が、ところどころに展示されているのだ(これは斎藤コレクションではなく三菱一号館美術館の所蔵品)。

記者発表の席でそのような展示があると知らされた時は、いくらロートレックらが浮世絵に影響を受けているといっても、さすがに違和感があるのではないだろうかと思ったが、実際に展示を見てみると意外とそうでもない(これはもしかすると展示された作品が浮世絵と同じ版画作品であることも関係しているかもしれない)。

いずれにしても日本の浮世絵とロートレックらの関係性をストレートに感じることができる面白い趣向である。

【その4】
肉筆浮世絵が数多く出品されていることにも注目しておきたい。貴重な肉筆浮世絵を各期10数点ずつ、全部で50点見ることができる(3回行けばだが……)。

そして最後に、今回の出品作には世界に1組しか現存を確認できていないシリーズなど、貴重なものもいくつかあるのでそこらへんも見逃せないところである。

蛇足だが、展覧会タイトルにある「Floating World」というのは、数十年前まで欧米で使われていたことがある浮世絵の呼称らしい(現在では、欧米でも“ukiyoe”というのが一般的)。


第1期:6月22日(土)~7月15日(月・祝)
    浮世絵の黄金期
     ―― 江戸のグラビア

第2期:7月17日(水)~8月11日(日)
    北斎・広重の登場
     ―― ツーリズムの発展

第3期:8月13日(火)~9月8日(日)
    うつりゆく江戸から東京
     ―― ジャーナリスティック、ノスタルジックな視線


2013年6月22日土曜日

ハリー・ポッター展 / 森アーツセンターギャラリー

ハリー・ポッター展が森アーツセンターギャラリーで開催されるというので内覧会に行ってきた。


私は、ハリー・ポッターとはほぼ無縁の世代(そういう枠組みがあるのかどうかは不明だが……)に属するのだが、原作が大ベストセラー、映画も大ヒット連発という作品なので、すべてではないが本も読んでいるし、映画も見ている(映画はテレビで放映されたときに見るだけなんだけどね)。

評価はちょっと微妙で、エンターテインメント作品としてはいいとは思うが、子ども向けのファンタジー作品としてはどうかな、といったところである。

そのハリー・ポッターの展覧会というのはどんな構成なのかと興味を覚えたため、のこのこ出かけてみた。

結論としては、ハリー・ポッターファンの子供やマニアの皆さんとその関係者(たとえば親とか彼氏や彼女の類)にとっては、文句無しに楽しめる内容である。夏休みに小学生位のハリー・ポッターファンの子供を連れて行ったら、お父さんの株が上がることは間違いなしという感じかな。

で、それ以外の人たちにとってはどうなのかというと、まぁ、それなりである。基本的には映画の撮影に使用した衣裳や大道具、小道具が豊富に展示されているので、それに価値を見いだせる人なら行けば楽しいし、反対ならつまらない。

しかし、行く人には楽しんでいただきたいので、(ハリー・ポッター展に)行こうと考えている方向けに三つほど注意点を述べておきたい。まず第一点目は、親子、カップルなどの少人数の集団で行った方がいいということ。通常私は、展覧会には一人で行った方がいいんじゃないの、という考えだが、この展覧会はあきらかに、複数で見に行った方が楽しめる類の展覧会である(たまにそういう展覧会もある)。周囲にいるならハリー・ポッターに詳しい人と一緒なら、なおよろしいと思う。

第二の注意点は、展覧会に行く前にハリー・ポッター・シリーズの映画を見ておいた方がいいということ。特に一度も映画を見たことがないという人は必ず見ておくべきである。見たことがあるという人も、復習のために見直してから展覧会へ行くことをお勧めする。まぁ、展覧会のためにシリーズすべてを見るのはたいへんだろうから、1、2本でいいとは思う(もちろん全部見たほうがいいことはいいが……)。そうすれば、より展覧会を楽しめること請け合いである。

第三の注意点は、焦って先へ先へと進まないということ。展示物の数は多いのだが、テーマごとにまとめて展示されている(悪く言うとゴチャっていう感じ)。そのため、ざっと眺めるだけで先へ先へと急ぐと、あっけなく見終わってしまう可能性がある。それではもの足りなさを感じてしまうかもしれない。だから焦らずにゆっくりひとつひとつ楽しみながら進むことをお勧めする。特に子どもを連れたお父さんお母さんは要注意である。

ハリー・ポッター展 公式サイト

2012年4月12日木曜日

三菱一号館美術館

昨日「KATAGAMI Style展」という展覧会が想像以上にいい展覧会だったと書いた。実はその展覧会を見にいったのは、展覧会自体への興味とは別にもう一つ理由があった。

と言ってもたいした理由ではないのだが、2年ほど前に新しくできた「三菱一号館美術館」をまだ訪れていなかったので、ぜひ行ってみたかったのだ(2年も前に開館しているというのに我ながらなんとも怠慢なことである)。



美術館に関しては何の予備知識も持っていなかったため、最近一気に再開発が進んだ感のある丸の内という場所柄から、どでかい高層ビルの1フロアか2フロアを使ってつくったものと勝手に想像していた。

ところが三菱一号館美術館に着いてみると、あにはからんや高層ビルが建ち並ぶ一角に低層の古風なデザインの美術館が建っているではないか。

なぜか私は明治、大正、昭和初期くらいに建てられた建築物が好きなのである。いまはやりの東京スカイツリーや汐留や六本木などの現代的な建築物を見てもちっとも興味が湧かない。国立新美術館をはじめて見たときは、なんて趣味の悪い建物だろうと軽く嫌悪感さえ感じものだ。

もちろん三菱一号館美術館は2年前に新しく建てられたものだが、明治期に建てられ原型となった建物がある。その原型とは日本政府が招聘した英国人建築家ジョサイア・コンドルによって設計され、1894(明治27)年に建てられた三菱一号館で、1968(昭和43)年に老朽化のため解体された。

その建物を40年余りの時を経て復元したのがこの三菱一号館美術館というわけだ。

内装も解体された建物の石材などを一部使用しているらしい。解体前の建物は貸し事務所として使っていたということなのでそのなごりか、小さな展示室が数多くある点も私好みである。「百聞は一見に如かず」興味のある方はぜひ一度展覧会を見に行ってみることをお勧めする。

と、かなり絶賛してしまったが、もちろん三菱一号館美術館は建物を見せるためだけにあるわけではないのでこれからもいい展覧会を企画していただければ幸いである。

三菱一号館美術館公式サイト

2012年4月11日水曜日

KATAGAMI Style — 世界が恋した日本のデザイン

ときどきこちらの期待をはるかに上回る展覧会に出会う。

今回出会ったのは、三菱一号館美術館で4月6日(金)からはじまった「KATAGAMI Style — 世界が恋した日本のデザイン」展。




わりとこういう渋め(と言っては失礼か)の展覧会が好きということもあったし、内覧会の案内FAXもいただいたのでノコノコ出かけて見た。

最初の展示室に入ると江戸時代の武士(あるいは明治時代の上流階級?)が着たであろう裃(かみしも)が数点展示されており、「おやおや、これは場違いな所へ来てしまったかな」と一瞬不安がよぎったのだが、それが早合点であることにはすぐに気づかされた。

声を大にして言うがこの展覧会は

「グラフィック・デザインやwebデザイン、その他創作に携わる人」

必見である。

もちろんその類いの仕事に何ら関係ない人でも十分に楽しめるし、お薦めであることは言うまでもない。

展覧会の主役を務めるのは布を染め込むために江戸時代に盛んに使われていた「型紙」である。

展覧会は日本では布を染めるためだけに使われていたその「型紙」が、海外の芸術家や工芸家などによってさまざまなもののデザインに見事に生かされていることがよくわかるように構成されている。

型紙自体のデザインが実に多様であることやその面白さもさることながら、その型紙デザインを実に多様なものに生かし、昇華させていった欧米各国アーティストの発想の豊かさが見どころである。

それにしても型紙をおそらく二束三文で海外へ大量流出させてしまった当時の日本の関係者は、いったい何をやっていたのだろうか。

展覧会についての詳細はこちらをご覧ください。

2012年4月6日金曜日

マウリッツハイス美術館展

改修のため2年ほど休館していた東京都美術館が4月1日にリニューアル・オープンした。

リニューアル・オープン記念として6月30日から「マウリッツハイス美術館展」が開催されるのだが、その関連イベントとして若手女優の武井咲さんが出演するCMの発表会を開くというので、新しい東京都美術館の見学がてら見にいった。

平日の午前中だというのに時期が時期なので(桜が満開&春休み)東京都美術館がある上野公園はこんな感じ。




子どもたちが春休み中なので行列ができている上野動物園の入り口近くを通って東京都美術館に到着。





中庭(?)では、何やら丸いオブジェを設置作業中。




2年間改修のために休館していたのでなんだか久しぶりという感じ。でも基本的な部分に大きな変更はなくホッとする。

そして肝心の「マウリッツハイス美術館展」のCMはというと、若手女優の武井咲さんがフェルメール作《真珠の耳飾りの少女》を演じるというもの。絵では少女が着ている服は一部しか見えていないのだが、今回17世紀オランダの時代考証を踏まえて文化服装学院が特別に制作したというのでその点も興味深いところ。

その出来映えは……。




ふむ、なるほどという感じ。衣装は絵の中の少女が着ているものの雰囲気がちゃんと出ているのでいいのではないだろうか。武井咲さんも少女役としては顔がそっくりというわけではないが、うまくはまっていると感じた。

CMの方は15秒スポットを2本流しただけなのでノーコメントとしておく。

いずれにしてもマウリッツハイス美術館はいい美術館なので、当然混雑するとは思うが今年見逃せない展覧会であることは確かである。


6月30日から開催の東京都美術館のパンフレット

9月29日から開催の神戸市立博物館のパンフレット

2012年2月15日水曜日

もしかすると人類のアート史が変わるかも


新たな時代調査によってスペイン南部マラガにあるネルハの洞窟にある壁画が人類最古のものになるかもしれないという。


まぁまだ、結論が出るのは先の話らしいが興味深い話である。

2011年12月15日木曜日

これは必見!「没後150年 歌川国芳展」

大阪、静岡と巡回してきて17日(土)から森アーツセンターギャラリーではじまる「没後150年 歌川国芳展」を見てきた。





この展覧会は必見である。


国芳の作品は数枚ずつなら横浜美術館などでときどき見ていたし、有名な作品はテレビの美術番組でも紹介されたりしているから「面白い絵師だなぁ」と思っていたが……。

200点(前後期合わせると約400点展示されるらしい)もの作品が一気に展示されていてもまったく飽きない面白さ、想像力の豊かさ、巧みな表現に、改めて驚かされてしまった。


「没後150年 歌川国芳展」公式サイトはこちら


ついでに、森美術館で開催している「メタボリズムの未来都市展」も気になっていたので見てきた。これも別の意味でいい展覧会だった。






国芳を見に行ったら、ついでに見ることを強くお勧めする。


「メタボリズムの未来都市展」公式サイトはこちら


ここのところあまりいい展覧会に当たらずガックリきていたので今日は非常に気分がいい。